Her secret 後編 (BOND 番外編)
次の週の月曜日、俺はこのまま牧野と
気まずくなるのだけは避けたいと
いつも通りに彼女の姿を捜すが見つからない
―――― 俺はあの寂しそうな牧野の顔を見てから
ずっと考えていたんだ ――――――
『遠くの親戚より近くの他人』
そんな年に数回しか逢えない恋人より
毎日側にいる俺の方が断然有利じゃないだろうかという考え、だ
牧野は今まで(信じられないが)
俺の気持ちに全然気づいてなかったわけだし
これからは意識して接する事ができる訳だ
そうすればきっと牧野だって
この俺の魅力に気がつくであろう
―――― まあ、この俺の考えがあまりにも浅はかだった事を思い知るのには
そんなに時間が掛からなかったんだが ――――――――
牧野を捜して彼女のいる部署を通りかかった時
彼女が急に異動になったという情報を仕入れた俺
しかもその異動先は営業1課
その部署は我が社の花形部署であり
誰もが憧れているところである
しかもこの俺が一目置いている先輩
橘さんのパートナーに、牧野が抜擢されたと聞き俺は更に驚いていた
・・・さすがは牧野
そう思わずにはいられなかった
その後牧野はさすがに異動したてで忙しいらしく
なかなか捕まらなかったが
俺は偶然を装って帰りを待ち伏せしたりして
会話を持つようにしていた
牧野は俺の告白をマジで冗談だと思っているらしく
その後も前と変わらず普通に接してくる
―――― 嬉しいんだか悲しいんだか
・・・・・微妙なところだよな
そんなある日
それは珍しく牧野が有給を使って
休暇をとっていた日の事だった
俺はその日の昼食を時間があまりなかった為
コンビニで弁当を買ってきて、オフィスの席で食べる事にした
廻りの人間はみんな外に出払っていたらしく
フロアには俺しかいなかった事もあり
俺はパソコン画面で適当にTVを見ながら弁当に箸をつけようとしていた
―――― その時
見ていたワイドショー番組の画面が
突然『特別緊急報道』とやらに切り替わり ――――――――
俺は何事かと
そのまま画面を覗いていると
『今成田国際空港よりお伝えしいております!
ただいま話題の道明寺財閥時期総帥との噂の高い道明寺司氏が
NYより極秘で帰国されるとの情報が入り ――――』
まるでどっかのスターでも来日したのかと思わせるような
ワイドショーのアナウンスが聞こえてきて
そして画面には大勢の報道陣に囲まれ、SPと思われる豪腕そうな男達に守られつつ
長身で雑誌で見るより更に眼球鋭く険しい顔・・・見るからに不機嫌そうな顔をした男 ――――――――――――――
―――― だがしかし
男の俺から見ても見惚れてしまいそうな
日本人ばなれした長い手足にモデルのような肢体を携えた
『道明寺司』 が映しだされていて ――――――――――――――
俺は彼から目が離せずに
じっと画面を見つめていると
突然
カメラのフラッシュが眩しいのか
俯き加減であった顔が一瞬前を向いたかと思うと
ある一点だけをじっと見つめていき
途端に
険しかった表情が
嘘のように穏やかに変化を遂げた ――――――――――――――――――――
それと同時に
こともあろうに道明寺司は急に駆け出したのだ・・・!!
周りのSP,報道陣があっけにとられていた
次の瞬間
・・・道明寺司はなんと『女』を、しかと抱きしめていた・・・・・!!
―――― 俺はその画面から映し出されていく映像を
瞬きすら忘れただひたすら見入っていた ――――――――
なぜなら
道明寺司が
さっきまでとは別人のような表情で抱きしめているその女・・・・・・
―――― 見間違えるはずもない
――――――――――――――――――――― 牧野 つくし であったからだ
牧野は何かを道明寺司に訴えてるようであったが
その次の瞬間
驚いた事に
二人は並居る報道陣の目の前で
―――― キスをし始めたのだ ―――――――― !!
『まるで映画のワンシーンのようだな』
と、もう一人の冷静な自分が
後ろで暢気に呟いているような
そんな感覚に俺は陥っていく ――――
報道陣が一斉にフラッシュをたきだした時
二人の後ろに居た・・あれはおそらく例のF4のうちの3人なのであろう
やはりむかつく程のイイ男達が
二人を囲むように立ちふさがり
更にその周りをSPが囲みこみ
足早に外に止めてあったらしい
高級リムジンに乗り込み姿を消していった ――――
TVレポーターはその後も何やら興奮してしゃべっていたが
もう俺には何も聞こえてこなかった ―――――――・・・・・
―――― 俺の中で
パズルが当てはまるかのように
今までの牧野の行動
言動が理解できていく――――
―――― 遠距離
―――― 逢えない
―――― 食い入るように見ていたあの 『雑誌』
そしてあんなにモテてやがるのに
誰に対しても・・・この俺にも一切興味を示さなかった事実
―――― 数々の習い事
あれは冗談でなく
本当に花嫁修業だったのかもしれない
――――――――――――――――――・・・ 天下の道明寺財閥の御曹司が『彼氏』なら
俺はついさっきまで
綿密に立てていた『牧野を彼氏から奪ってやる計画』 が
音を立てて壊れていくのを感ぜずにはおれなかった
さすがの俺でも
あの『道明寺司』をライバルにするほどの度胸は
持ち合わせてはいないからな・・・・・・・
翌日、思ってた程廻りの反応も激しくなく
普通に出勤してきていた牧野
―――― 後から知った事だが
どうやら裏で『道明寺』の力が動いていたらしい
俺はいつものように
帰り際の牧野に声をかける
「よう!今日はもう帰り?」
「あ、お疲れ様・・!古谷くんこそ、早いじゃん 」
いつものように笑顔を見せる牧野
俺はエレベーターを一緒に待ちながら
意を決して牧野に尋ねてみる
「・・・・牧野・・・お前さ、
すげー人間と付き合ってんだな・・・?」
牧野は一瞬驚いたような顔をして
そしてすぐにちょっと恥らうような顔を浮かべていた
「・・・そうだね・・・ほんと自分でもときどきそう思う 」
―――― 否定しないって事は
やっぱり事実なわけか ―――――――
「―――― 彼がこの前言ってた『遠距離』の彼なんだろ?」
「うん・・・くすっ・・・古谷くんにはなんか素直に話せちゃう
なんでだろうね・・?」
そう俺に向ける笑顔があまりにも可愛らしく
俺は昨日リタイア宣言したにも関わらずドキっとしてしまった
会社の出口まできた所で
突然ビクッと動きを止める牧野
俺はどうしたのかと
牧野の視線を追ってそのまま正面に目を見据えてみると
―――― そこには
不機嫌そうに
まるで俺を威嚇するかのような鋭い眼光で睨んでいる
『道明寺司』 が存在していて ――――――――
俺は自分の置かれている状況も忘れ
目の前に本物の『道明寺司』がいるという事実に
興奮と驚きを隠せないでいた
道明寺司は
ゆっくりとした優雅な足取りで牧野の方に近づいていき
牧野を覆い隠すように俺の前に立つ
「―――― てめ 誰だ?
俺の女に手を出すとはいい度胸だな?」
そう俺を睨みつけながら
低い声で威嚇する道明寺司
ボカッ!!!
「このバカもんがっ!!」
「イテッ!! てめ、何すんだよっ!?」
―――― 俺はあまりの衝撃に言葉もなく固まってしまった ――――――――
牧野は
なんと世界の道明寺財閥時期総帥と
噂されているこの御曹司を
なんの躊躇いも無く、グーで殴っていたのだ・・・!!
しかも更に牧野は
罵倒するセリフも忘れていない
「すぐに凄むなっていってるでしょ!?
あんたってほんとに進歩ないんだからっ!!」
「なんだと!?この暴力女っ!!」
道明寺司も
そんな牧野に動じることなく応戦し始めていった
固まっていた俺を
どうやら勘違いした牧野は更に言葉を続けていく
「彼はただの同期でお友達なの!!彼に謝んなさい!!
びっくりしちゃってるじゃないよっ!!」
・・・い、いや牧野、
・・・・・俺が驚いてるのはお前のその道明寺司に対する対応の方で・・・・・・
―――― そして俺は
こんなに生き生きとして輝いている牧野にも
衝撃を受けずにはおれなくて
道明寺司とののしり合いながらも
どこか楽しそうで
―――― こんな牧野を見たのは
・・・初めてだったのだ ――――――――
「お前がきょときょとすんのが悪いんだろーがっ!!」
「あたしのどこがきょときょとしてるっつーのよっ!?」
いまだギャーギャー言い合いを続けている二人をその場に残し
俺はその場からそっと立ち去っていく
どのくらい歩いた時か
ふいに後ろから俺を呼ぶ牧野の声が聞こえてきた
「古谷くーんっ!! ほんとにごめんねーっ!!
又明日ねーーっ!!!」
俺は振り向く事が出来ずに
手だけを頭の上でヒラヒラと揺らしていた
――――たぶん俺は
生まれて初めて完璧な”失恋”というものを
味わってしまったのかもしれない ――――――――
きっと俺は
今日この出来事
この想いを
この衝撃を
一生
忘れる事はないだろう
―――― そして君に
心からの笑顔で
祝福の言葉を ――――――――
『 牧野 幸せに !! 』
〜FIN〜
*あとがき*
・・・さて、彼がどこにいたかわかりましたでしょうか・・・?(汗)
第3者視点でやってみました^^:
とんだモンにお付き合いくださり本当にありがとうございました!(低腰)
tantan